東方キャラで語る飛行機の歴史 その3
「結構このコンテンツも続くわねぇ、今回で3回目だっけ?どのくらいまでやる見通しなのかしら?」
「まぁ、結構受けもいいようだしな。ところで、今回はどこの飛行機をやるんだ?今までイギリス、フランスと来たけど次はソ連かイタリアか?」
「ええと、今回は・・・アメリカの多座戦闘機ベルXMF1/YMF1エアラクーダね。」
「へー、今回はアメリカの戦闘機なのか。」
「意外ねぇ・・・アメリカって結構手堅い飛行機作ってるイメージあるけど」
「まぁその辺は説明を聞いていれば分かるわ。この戦闘機だけど、1936年にアメリカ陸軍航空隊によって要求が提示されたのね。当時アメリカ陸軍は新型爆撃機B−17を開発していたんだけど、他国が同じクラスの爆撃機を作った際に使用する迎撃機が欲しかったようね。」
「B−17かぁ・・・アレはかなり頑丈な機体だよな、後で日本軍も南方で苦労することになるし」
「私はメンフィス・ベル*1かな。アレもなかなかいい映画だったわねぇ・・・」
「で、この要求を受けたのがロッキード社と新興のベル社。ただ、ロッキードはすぐ降りちゃったので*2開発はベル社に任されることになったわ。今でこそヘリコプターで有名なメーカーだけどこの頃のベル社はこれが初めての大きな開発発注だったのね。」
「でもこのコーナーに関わる以上あんまり気合入ってもろくな事にならないような気はするけど・・・」
「で、開発者のロバート・J・ウッズはかなり大胆な設計を行ったわ。まずは全金属、単葉、引き込み脚。」
「で、エンジンはターボチャージャー付きアリソンV1710双発推進式。」
「推進式*3?なんでまた・・・後ろでプロペラが回ってたんじゃ脱出するとき危なくない*4?エンジンも冷却しにくいし。*5
「それは武装と関係してくるのね、この飛行機は対爆撃機用ということで37ミリ機関砲を2門積んでいたんだけどこれをエンジンナセルに装備していたの」
「げ、ということは後ろでエンジンが回っているナセルが銃手席か?かなり怖いな・・・」
「あとは胴体側面にブリスター銃座、ここでは12.7ミリ機銃が装備されているわ。」
「さらに胴体後部の爆弾倉には13キロ爆弾20発も装備されることになったわ。」
「ちょ、ちょっとまて、これって迎撃機だよな?何で爆弾なんか積むんだ?」
「一体設計者と陸軍はこの飛行機に何させる気なのかしら・・・」
「さぁ?どうもこの時点で何をさせたいのか分からなくなっていたのかもしれないわね・・・それはともかくとして、試作1号機は何とか完成、1937年9月には初飛行したわ。まぁ、最初の飛行でエンジンがバックファイア起こして吸気ダクトとインタークーラーが破損しちゃったんだけど。」
ベルXMF1/YMF1エアラクーダ(試作機)
「ちなみに2回目の飛行では脚のロックがかからずに着陸時にプロペラと翼端をこわしちゃったり。」
「何とか10月には無事に陸軍に引き渡されたんだけど、とにかくやたら整備に手間取るのと故障が多かったので整備員からは嫌われていたようね。それでもテストの合間にエンジンを強化したり機体のあれこれを変更したんだけど、どうも根本的に使えそうに無い事が分かってきたの。」
ベルXMF1/YMF1エアラクーダ(イメージ映像)
「あ、あのー、なんか速度がB−17よりも50キロも遅いんですけど・・・」
「え?え?インメルマンターン*6。や背面飛行?そんなの無理ですぅ〜」
「あ、私地上でエンジン回すとオーバーヒートしちゃうので滑走路まで引っ張ってもらえませんかぁ?」
「・・・・・・なぁ、これって戦闘機どころか飛行機として半分以上失敗してないか?」
「戦闘機なのに基本空戦機動のインメルマンターンとか背面飛行出来ないってどうなのよ・・・」
「しかも悪いことにこの飛行機、値段がやたら高かったのよ。当時の高級爆撃機B−26が26万ドルしたのに対してこのエアラクーダは約21万ドル。さすがにこの性能でこの価格は高すぎたと思ったのか、ここでエアラクーダの開発は打ち切られてしまったわ。」
「まぁ、探せばもう少しまともな飛行機はいくらでもあるしなぁ・・・」
「あと、このせいでベル社の経営も一時傾きかけたりで、この飛行機は設計者、メーカー、軍の関係者3方面にとって失敗だったということになるわね。」
「まぁ、これも一種の三方一両損なのかしら?」
「いや、三方一両損ってレベルじゃないだろ。」
アイコン提供 ぶらんけっと様
し〜くれっとも〜ど様
参考資料
- 作者: 岡部ださく
- 出版社/メーカー: 大日本絵画
- 発売日: 2003/09/01
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*1:アメリカの映画。第2次世界大戦下の欧州戦線、伝説の米空軍の名機(メンフィス・ベル)に乗り組んだ10人の若者が力を合わせて任務を完了するまでを描くスペクタクル・ドラマ。
*2:別の新型戦闘機P−38の開発が忙しかったので
*3:航空機においてプロペラが機体後部に設置されている形式のことで、プロペラの回転によって生ずる空気の流れは機体を"押し出す"形になる。これに対して牽引式(トラクター式、Tractor configuration)では、プロペラが機体前部に設置されるため機体を"引っ張る"形になる。
*4:単発・推進式の航空機では、搭乗員が脱出する際にプロペラに接触する可能性がある。推進式を採用することで、理論上は操作性が向上するにも関わらず、この潜在的な危険を理由に第一次大戦後の戦闘機ではほとんど使われることがなかった。
*5:牽引式配置の空冷エンジンでは、プロペラから生み出される気流によって効率的にエンジンを冷却することができる。しかし推進式の場合は同じ効果を得られず、いくつかの機種で冷却が不十分になる問題が発生している。キャブレターの凍結においても同様で、シリンダーから発生する熱(熱風)によってキャブレターを暖めたり凍結を防止することは(牽引式に比べて)難しい点が多い。」
*6:航空機のマニューバの一つ180度ループ、180度ロールの順に行うことで縦方向にUターンする空戦機動を指す