萌える春秋戦国史 「しゅん☆じゅう」 その24

さて、今回で萌える春秋戦国史も24回目ね。


今回は第2部から出てきているあの人が再登場します。





さて、前回は驪姫の陰謀により太子申生が自殺し、重耳と夷吾の2人が他国に亡命したところまで進みました。


明らかに国内に不穏な空気が流れているわね・・・


その1年後、紀元前655年に晋献公は西方の虢と虞の2カ国を攻撃しようとしました。


あれ、聞いたことのあるような国が・・・


第2部、16話で少し出ていますね。詳しくは以下を見てみてください。


萌える春秋戦国史 「しゅん☆じゅう」その16 - 徒然なる読書の日々出張版


紀元前655年 晋都・絳


晋献公
さて、今度わが国は西方の虢と虞の2カ国を攻撃しようと思う。だが一度に2カ国を相手にしては簡単に勝つことは出来まい・・・各個撃破の方法は無いか?


殿、私に名案があります。


おお、荀息か。どのような手があるのだ?


荀息
晋の大夫。前651年没。献公の腹心。士蔿が亡くなった後献公から最も信頼されるようになった。


以前我々は翼城の晋公室を滅ぼしましたが、生き残りの公子たちが虢に亡命しております。その公子たちを捕らえるために道を借りたいと虞公に言えばよろしいのです。


確かに虢を攻めるには虞を通らなければならないから、辻褄は合うが、虞公は聞きいれないのではないか?


虞公は殿がお持ちの屈産の名馬と垂棘の宝壁(平べったいドーナツ状の玉。「璧」とは宝珠(宝の玉)のこと。玉は古来、中国人が愛好し、珍重してきた宝石(翡翠等)である)を喉から手が出るほど欲しがっています。それを贈ればきっと道を貸すでしょう。


何?だがあの馬と宝壁は私の宝だ、渡すわけには・・・


いいえ、道を借りて虢を滅ぼし、帰りがけに虞を叩き潰せば殿の宝は手元に戻ってきます。心配には及びません。


そうか・・・わかった。


それでは早速・・・



西方の国・虞



殿、晋献公の使者がお越しです。


百里
第9話より登場。諸国を遊説して回る浪人。16話終了時に西方の国虞に仕官する。


何?晋の使者?一体何の用だ・・・?


虞公
虞国の君主。後に晋の策にはまり、国を滅ぼす事になる。自身は周に亡命した。


これは虞公、ご機嫌麗しく・・・実はわが国は以前翼城から亡命した公子たちを捕らえたいと考えています。それで、虢への道を貸していただきたいのですが・・・


何だと?わが国と虢は友好国だぞ、それを攻めるとは・・・道を貸すわけにはいかん!


もちろんただでとは言いません、この屈産の名馬と垂棘の宝壁をお礼にお贈りします。


よし、道を貸そう。


早っ!?


殿!いけませんぞ!


宮之奇
虞国の大夫。賢臣として諸国に名を響かせていたが、虞国の滅亡と共に歴史から姿を消した。


宮之奇か、そちは反対するのか?


ええ、唇亡びて歯寒し・・・といいます。虢と虞はその唇と歯の関係と同じなのです。道を貸してはいけません。


早とちりするな、別に晋は虢を滅ぼすのではなく亡命した公子を捕らえようとするだけではないか、それにわが国と晋の公室は同じ姫性ではないか、同姓の国を滅ぼすような真似はするまいよ。


馬鹿な!そもそも今の晋公室は本家を滅ぼしているのですぞ!それに・・・


宮之奇殿、そのくらいで・・・


百里奚殿?!


・・・お騒がせしたようだな、ともかく、わが国は道を貸すことにした。献公にはそのようにお伝え願いたい。


はい、それでは私はこれで・・・





百里奚殿、道を貸せば虢もろとも滅ぼされるのは目に見えています。何故止めたのですか?


それはそうです・・・ですが、殿の目をごらんになりましたか?あれは物欲に憑かれた狂人の目です。むきになって諌めれば貴方の命が危ないと思いました。



・・・・・・もはや万事休す。こうなれば一刻も早くここを離れるべきですね。一緒に逃げませんか?


私もそうしたいですが・・・一度に2人では目立ちすぎます。私には失うものもありません、どうぞ先に逃げてください。


そうですか。では、お先に・・・



この直後、晋献公に指揮された大軍が虢に攻め込み、不意を突かれた虢はあっという間に滅ぼされました。


やっぱり・・・


この直後に晋軍は反転し、虞に攻め込みました。同じく虞も不意を突かれあっさりと滅亡、虞公は逃亡しました。



だから言ったのに・・・


I shall return!


いや、無理でしょ・・・



晋都・絳


殿、捕らえた虞の大臣たちはいかがしますか?


ふむ・・・全員わが国には仕える気が無いと言っているようだが、間違いないか?


はい・・・


よし、それでは近く我が娘が秦に嫁入りする。その付き人にせよ!



こうして百里奚は晋の公女の付き人として秦に送られることとなりました。


16話で蹇叔が言っていたことが本当になってしまったわけね・・・


この虞の国は北は晋、南に虢と国境を接していますが両国とも隙有らば小国を併合している国です。潰されないでいるのが不思議なくらいなのですよ。


蹇叔
斉の貴族の次男坊。16話の時点で百里奚と別れ、音信普通となる。


・・・・・・


秦軍兵士
こら、何を突っ立っている!


・・・ああ、蹇叔が言ったとおり、虞は滅び、私は囚われの身になってしまいました・・・


何とかこの不自由さから逃れたい・・・  ん?そういえば今日は妙に警備が薄いような・・・ こうなればいちかばちか、逃亡しましょう!



ところが百里奚は隙を見て逃亡、南の楚国へ逃げました。


その楚ではどうしていたのかしら?


彼は楚の地方領主に捕まり、馬飼いとして使われる事になりました。


この人も苦労人ねぇ・・・


ふぅ・・・諸国を流れ、行き着く先が馬飼いとは・・・いかにも私の人生の末路にふさわしいというべきでしょうか・・・



ところが、当時の秦の国君穆公は輿入れしてきた晋の公女から百里奚が優れた人物である事を聞かされます。



秦の都・雍


あなた、私がこの国に来る時に連れてこられた付き人の中に百里奚という人物がいました。彼はなかなかの人物です。この国で登用するべきでは・・・


穆姫
晋の公女で、秦穆公の妃となる。後々の行動を見るに、結構アグレッシブな性格だったようだ。


ふむ・・・では一度彼に会って見ましょう。今どこにいるのですか?


秦穆公
秦の第9代君主。姓は嬴(えい)。諱は任好(じんこう)。徳公(第6代)の子で成公(第8代)の弟。兄弟相続により秦公となる。


・・・それが、ここのところ姿が見えないのです。もしかしたら他国へ逃げたのかも・・・


ふむ・・・公孫枝!公孫枝はいますか!


はっ、ここに・・・


公孫枝
秦の大夫で公室の一員、秦穆公の下で謀臣として活躍する。


穆姫の付き人として来た百里奚という者が逃げたようです。すぐに行方を捜してください!


お任せください。



そして数ヵ月後


殿、見つかりました。


早かったですね。それで・・・どこにいましたか?


南方の楚で、馬飼いとして使われているとのことです。


ふむ・・・となれば無理やり連れ出すと騒ぎになりますね・・・財宝を贈って連れて来ましょう。


いえ、下手に大きな財を贈れば彼の価値に気づいて楚が彼を取り立ててしまいます。


うーん・・・では、羊の皮5枚(五羖)で買い戻すという事にしましょう。


こうして、百里奚は秦に連れ戻され、秦穆公に迎えられる事になりました。



秦都・雍


こ・・・これは・・・?私は逃亡奴隷として処刑されるのではないのですか・・・


何をおっしゃる、私は貴方が優れた人物であると聞いて国事について語り合いたいと思ったのです。


そんな・・・私は亡国の臣です。果たしてご下問の価値があるでしょうか。


いや、あれは虞公がそなたを正しく用いなかったためです。貴方の罪ではありません。


・・・ありがとうございます。それでは・・・


この後、穆公は連れ戻された百里奚と国事について三日三晩語り合い、彼を秦の大夫として取り立てる事を決意しました。


この人にようやく巡ってきた春、ということね。


・・・いや、しかし、貴方のような賢人が五羖とは、随分と安い買い物をしました。


いえ、私ごときはとても私の友蹇叔に及びません。


それはどういうことですか?


私がかつて斉で飢えていたところを彼は救い、私が斉の公孫無知に仕えようとしたのを蹇叔が止めたので、後に無知が殺されたときの難から逃れる事が出来ました。また、周の王子頽に仕えようとした時も蹇叔が止めたので、後に誅殺から逃れる事ができました。その後、私は虞公に仕えましたが、この時は蹇叔の言う事を聞かなかったため、難に遭いました。私は蹇叔の賢明なことを知っています。


わかりました。では蹇叔もわが国に迎える事にしましょう!


この後、秦穆公は人を使って蹇叔を見つけ出し、秦の大夫に取り立てました。



・・・百里奚!よく無事で・・・


蹇叔・・・私は随分回り道をしてしまいましたがようやく自分の居場所が見つかりました。どうか一緒にこの国を盛り立てましょう。


もちろんです!



この後、百里奚は蹇叔と共に秦穆公の下で腕を振るい秦の強大化に貢献、後世に五羖大夫の盛名を残しました。


今回はここまでかしら?


そうですね。次回からはまた晋の方に話が戻りますが今回出てきた秦の人たちも出てくるのでお楽しみに。





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